世界を変える「デザイン」

 この本をご存知でしょうか。

 私は最近、この本に由来するイベントのスタッフボランティアをしています。それはとても刺激的で、私に様々なものを与えてくれています。それは労働の楽しみ、BOP(Base Of the Pyramid)という概念、そして私の専門への新たな視点でした。

世界を変えるデザイン展

 世界を変えるデザイン展というイベントが、東京ミッドタウンで開かれています。

 このイベントでは、発展途上国の様々な課題を解決する「デザイン」をテーマに展示会やカンファレンス、そしてワークショップが開かれています。このブログを書いている時点(5月24日)は開催から1週間。ものすごくたくさんの方々がいらして下さいました。特に開催初日と2日目のカンファレンスはほぼ満席の状態で、様々な方々が意見交換をされておりました。展示場の方も、会場のデザインハブではここ数年ないほどの入りで、初日で800人を超える入場者数だったとのことです。平日においても常に200〜300人の来場らしく、1週間たった23日(日)もたくさんの人でにぎわっていました。
 この様子からも、人々の間での関心の高さが伺えます。しかし、このデザイン展は、ただの展示会ではなくここから日本のBOPビジネスを盛り上げていこうという意図があるそうです。BOPやデザインという概念は、日本では世界と比べて5年は遅れているといいます。関心はあるけれども事業となるとまだまだというのが日本の現状ということでしょうか。ただ、「遅れているから」という理由ではなく、このデザイン展をきっかけに多くの方々が世界の現状と動向を知り、新たな視座とともに新しく世界を変える行動を起こしていったとしたら、それば素晴らしいことだと感じます。

BOPを知っていますか?

 ところで、BOP(Base Of the Pyramid)という言葉をご存知でしょうか。ちなみに上記で紹介した書籍のもう1つのタイトルは、"DESIGN FOR THE OTHER 90%"。世界の90%は貧困層であり、それをピラミッドの基盤(Base)として例えているのです。BOP(Bottom Of the Pyramid)とも呼ばれていたのですが、そのBottomという差別的な意味合いを避けて、近年ではBaseを使うようになっていると聞きました。*1
 そして、BOPが自らの手で発展していけるよう支援するのを、彼らをターゲットとしたビジネスによって行っていくというのは「BOPビジネス」と呼ばれています。「途上国支援」と聞くと、「慈善事業」であるとか「先進国のエゴ」のように考える方もいるかもしれません。確かに一面としてはそういうところもあるかもしれません。しかし、私がこのイベントで見てきたものは、単純な資金投入や開発というものではありませんでした。現地の生活をよく調査し、現場に受け入れられるプロダクトとビジネスモデルを開発していく地道な事業が行われていました。実際、カンファレンスに参加されていた一般の方々も、BOP事業を採算の取れる「ビジネス」としていかに維持していくのかというところに関心をもたれている様子でした。
 私は、この「デザインが世界を変える」という考えに感動を覚えずには居られません。ただのプロダクトデザインですら、途上国の生活問題を解決するきっかけになるのです。原始人類が発展してきた歴史は、思考錯誤しながら様々な「道具」を開発してきた歴史です。それは形あるモノからコンセプト、そしてシステムへ。この歴史をもう一度、しかもビジネスとして再現しようというのです。私はこの「デザイン」という言葉のもつ可能性に感動せずにはいられません。

デザインとは何か?

 カンファレンスである講演者の方が「デザイン」を次のように定義していました。

デザインとは、社会のもつ課題を解決する手段である。*2

「デザイン」というとよく連想されるのは、製品の外見、意匠のことではないかと思います。しかし多くの現場で使われる「デザイン」はもっと大きな意味をもっています。コンセプトのデザイン、システムのデザイン。世のデザイナーはもはや、製品の最終段階だけではなく、世界そのものさえもデザインしようというのです。言い過ぎ?
 ところで、私は「社会のもつ課題を解決する」というフレーズに聞き覚えがあります。この言葉をまさかデザイン展のカンファレンスで聞くことになるとは思いもよりませんでした。これは、私の専門である管理工学を語るときに使う言葉です。管理工学(経営工学、産業工学)は、社会の問題を様々な技術を駆使して解決する学問です。「管理」や「経営」という言葉を使うときは企業活動や産業システムが意識されていますが、広く見れば公益や社会システムなどのこの世界そのものを扱うことになります。そしてこの「社会の持つ課題を解決する」という行為は、もはや工学そのもの。学問として一般化するかしないかの違いはありますが、私の目の前で様々な世界と概念が重層的に関係し合う様子が感じられます。
 私は、この「デザイン」の考えがもっともっと広まればいいと思います。BOPに限らず、もっと身近なところから。日々の生活のちょっと大変なところを工夫してデザインの形で解決していく。それが事業として大きくなっていけば、確かに世界は変わってしまうかもしれないと夢を見てしまいます。

私の世界は変わった

 今回のデザイン展スタッフボランティアをさせてもらって、私の世界は大きく変わったように感じます。知らない世界に足を踏み入れた感じがします。デザイン展、カンファレンス、BOPビジネスを手掛け国際的に活躍される方々を目の当たりにし、それに関心を寄せる方々、そしてそれに関わる学生たち。
 この縁は、いったいどこへ繋がっているのだろう。私には、この世界で何ができるだろう。毎日そればかり考えています。

*1:BOP〜経済システムの外側にいた低所得の40億人 http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100122/206703/

*2:うろ覚えだけど、こんなことを言っていました。