初めて釣りをした!

2010年2月23日火曜。今日は実に素晴らしい日だった。私の人生において、初めて「釣り」という出来事が起こったのである。これは重要な事件である。釣りは私にとって、釣りそれ自体の新鮮な経験以上の変化を起こしてくれた。

遂に釣りをする

記念すべき最初の釣りは、大学の釣りサークルの人たちの導きによって始めることができた。私はもう大学3年生なのだが、突然「釣りをしてみたい」というメールから始ままった私のわがままを、彼らは快くしかも素敵な形で実現してくれたのだ。
場所は「柿田川フィッシュストーリー」という管理釣り場。なんと静岡県。道中は富士山を拝むこともできた。この日の朝は午前4時起き。前日はワクワクするあまり、遠足前日の小学生のように眠ることはできなかった。それ以前に生活リズムが当然のように合っていなかった。

せせらぎの音に身を浸し
魚の群れに心を投げる

成果は初めてにもかかわらず10数匹にも上る。ほぼすべての池で魚をつり上げ、後半は唯一つり上げることかなわなかった大物の集まる池を攻めるに至った。この日使ったルアーは

  • スプーン(小アジのような形をした、おもちゃみたいなルアー)
  • スティック(つまようじのようなルアー)
  • ミノー(うまそうな小魚にしか見えないルアー)

最終的に私はミノーの虜になっていた。いかに魚になりきるか。魚を観察し、魚の感覚を想像し、手首から先に意識を集中し、魚の演技をする。ひたすらである。
私の心はもっと魚を求めている。こんな気持ちになるなんて思いもよらなかった。

魚を捌く

この日私は、釣りをするだけでなく、釣った魚を目の前で捌いて刺身にして食うという経験をした。信じられない。やや憧れの気持ちもあるにはあったが、まさか初めての釣りで経験できるとは思いもよらなかった。
サークルの釣り名人がつり上げた55cm大のサーモンを彼は私の目の前で捌いてくれた。3枚に下ろされる魚の身はなんとも言えない鮮やかなオレンジで、それこそジューシーに実ったオレンジの果肉のようにも見えた。ナイフで小さく切った一切れを頬張ると、身はぷりぷりとしていてなんとも美味しい!血抜きがおくれたらしく、「もっと美味しくなる」と名人は言っていたが、私には信じられないほど新鮮だった。確かに、醤油だけでなくわさびもあったらもっと美味しかったろうとは思った。

死に触れる

初めての釣りという素晴らしい経験は、楽しいことだけではなくおぞましくも重大なものを私の心に与えてくれた。私は、それまで深くは考えてこなかった「釣り」というレジャーが、「狩り」であることを知った。娯楽のために生き物を傷つけ、殺す。唇を貫通する釣り針。釣り糸に引かれ暴れる魚。針がエラに刺さり、血を流してのた打ち回る魚。止めにハンマーで頭を叩かれる瞬間。数秒前まで全身をもって泳いでいたはずの体が分解され、バケツの中で血を流していく姿。そして、その身を口にする私。それらすべては、私の心を揺さぶった。
別に死は特別なことではない。私は父の死体も見ているし、無数の生物の死骸を食べてきた。理解している。けれど、死はいつも私の心を揺さぶるのである。私はこれからも釣りをするだろう。釣り針を投げ入れるたび、私は自らの唇に針を刺す瞬間を想像するだろう。

食事のため以外で殺生をすべきではないか
釣り針の付いていない釣り糸を垂らすべきか

私の心はこれからどう変化していくだろうか。楽しみである。

私は一生、幸せになる。

以上のような経験をするに至ったのは、たった1つの言葉から始まる。1月、私が試験勉強ばかりの毎日に嫌気をさしていたとき耳にした言葉である。

一生幸せになりたかったら釣りを覚えなさいってことわざがあるんだぜ

すべてはそこから始まった。私の素晴らしい1日は、まだまだ始まっていくのである。