合唱サークルのリーダー勉強会資料

私は去年、合唱サークルのマネジメントを行っていました。本当は運営の執行学年ではない上に幽霊部員に近い状態だったのに、人材不足により、駆り出されました。慣れないメンバーたちに囲まれ、分からない業務をこなさねばならないのはとても辛かったけれど、マネジメントは私の本業。心沸き立つところもありました。
そんな中で私が行った仕事の1つに「次世代リーダーの育成」というものがありました。「次の執行学年へリーダーの業務を受け継ぐのだけど、ちゃんと引き継いでる?リーダー・マネージャーとしての資質を開発している?」という問いのもと、その仕組みをつくろうと行動したわけです。
内容としては、「理論」と「実践」。

  • 実践・・・次年度のリーダーはすでに決まっているので、通常の運営業務に混ざってもらうことで以下のようなことを実現してもらいます。
    • リーダーとしての経験を積む
    • 「理論」で学んだことを生かしてみる
    • 学年を越えた活動の活性化
  • 理論・・・たった数回の実践だけでは経験できないこと、分からないことはたくさんあります。そうした事柄を座学で伝えられたらなぁと思い実施しました。以下のような手続きが必要でした。
    • 今年度のリーダーたちが経験したことを理論化し、伝達可能な形にする
    • 「勉強会」として、理論を伝達する

以上のことを、「理論」を1回約2時間の座学で3回、「実践」を1コマの練習を任せることで3回実施しました。これによって私たちの組織は、リーダーの人材にある程度の質が保たれ、さらにこの仕組みを受け継いでもらえれば毎年度の経験は蓄積され、組織として学習・成長していけるのではないかと考えました。
以下において、作成した勉強会の資料を簡単に紹介したいと思います。他の合唱サークルの方々にとって何か有益なものとなれば幸いな限りです。

勉強会資料 概要

技術資料は、サークルにおいて技術的な部分の運営を任されている指揮者・パートリーダーを対象にしてまとめられたものです。これには組織運営に役立つモノの見方・考え方がまとめられており、これを読み合わせることにより以下のことが実現されます。

  • 今年度のリーダー間で経験の共有
  • 次年度のリーダーへ経験の継承

リーダーに必要な技術として、以下の3つが考えられます。

  • リーダーシップを発揮するための技術・・・組織の目標を打ち立て、その内容・意義などをメンバーに伝え、率先する技術
  • マネジメントの技術・・・活動計画を立て、管理する技術
  • 音楽技術・・・活動の中心である音楽活動の質を高めるために必要な技術

技術資料は以下の構成でまとめられています。

  • 運営技術資料・・・リーダーシップのための技術とマネジメントの技術をPDCAサイクル*1に沿って記述しました。
  • 音楽技術資料・・・音楽技術を曲練習の発展段階*2に合わせて記述しました。

運営技術資料

  1. 概要・・・サークルの運営には以下の4つの段階があり、それらを繰り返すことで実施されていると考えられます。それぞれの段階において役立つと思われる技術を列挙していきます。この中でも特にPlanの技術は、不確実な事柄を扱うためある程度の経験や勘のようなものが必要になってきます。これは技術会勉強会のテキストとして用意したものなので、Planの技術は最後のセクションに記述しました。
    1. Plan(計画)・・・「目標」や「要件」を明確にしてスケジュールを立てる。
    2. Do(実行)・・・最善を尽くす
    3. Check(評価)・・・計画とのズレや問題点・疑問点を明らかにする
    4. Action(改善)・・・評価を次に生かす
  2. Doの技術
    1. 時間管理・・・練習はみんなの貴重な時間を消費して行われ、また時間には限りがあります。各練習前にシナリオをイメージすることで質の高い練習が実現可能なのです。
      1. 条件と目標を把握する・・・条件:時間制限、場所、曲目、曲の内容など。目標:「全体像を把握する」「譜面なしで歌えるようになる」など。そのた:資料、伴奏、先生など。
      2. 目標達成へのシナリオを描く・・・次の3つのステップが考えられる。?曲を分析する、?メンバーを分析する、?アクティビティを作る
      3. 練習内容を分配する・・・分解した練習パーツ(アクティビティ)を時間軸上に配置。時間制限などによって取捨選択する必要がある。ドラマティックなおもしろいストーリーを組み立てて下さい。
    2. 練習時に気をつけていること・・・実際に練習を指揮しているときに各々が考えていることをリストアップして共有します。
      1. 行動と目的・・・「どんな行動」が「どんないいこと」を引き起こしたのか。その「いいこと」を再現するために具体的な「行動」を改善することを考えるのです。
      2. 気をつけているポイントシート・・・自分の考える「気をつけようと思うこと」をリストアップして共有。
      3. 反省する・・・練習毎に自分なりにポイントをうまく実践できたか評価しましょう。
    3. リーダーシップとフォロワーシップ・・・組織運営について考えてみる。
      1. リーダーとは何か?・・・「あなたの右手の5本指の内、リーダーはどの指ですか?」本当は、リーダーとマネージャーは違うんだよ。
      2. フォロワーとは何か?・・・この大多数こそが組織の実態であり、活動主体。組織を実際に支えているこの大多数とどのような関係を築いていくか。
      3. どんなチームがお好き?・・・ピラミッド型、フラット型、学習する組織などなど。
  3. Check・Actionの技術・・・言いかえれば反省の技術。個人だけではなく組織として学習していきましょう。
    1. ミーティング・・・実際にPDCAサイクルを回すためには、Check-Actionの作業を行う必要があります。
      1. ミーティングを開く・・・「会って話す」「電話で話す」「メールで話す」の「会って話す」。「時間」「場所」「議題」「目標」の4つを考えておく。
      2. 記録する・・・「共有」「確認」「蓄積」できるようになる。
      3. ミーティングの構成・・・「現在」「過去」「未来」のことについて考える。
    2. 反省・分析・・・漠然と起こったことをリストするだけでなく、良いことも悪いことも何が原因だったのかまで考えましょう。
      1. 学習する・・・大事なのは、?やってみる!?助け合う!?反省する
      2. なぜなぜ分析・・・原因分析する手法
      3. PSF(Performance Shaping Factor*3)・・・個人の意識や精神を注意するではなく、環境を変えることでみんなの行動を変える
    3. 改善・・・分析をしたら次は改善
      1. シナリオを考える・・・「こうしたらこうなって、こうしたらこうなって、こうしたらこんないい感じになる!」というシナリオを描く
      2. 一般化する・・・他の場面でも使えるような形にまとめることができて、そのアイデアを伝えることができれば、それは個人だけの技術ではなく組織としての技術となります。
      3. 来年も技術会勉強会をやってね♪・・・もしもこの企画が世代を超えて続けられていけば、私たちがいなくなった10年後のサークルはもっといいチームになっているのではないでしょうか。
  4. Planの技術
    1. 要件を明確にする・・・計画の要は「情報」。「要件」とは、最低限満たされるべき項目のこと。
      1. 目的・目標を明確にする・・・活動の目的を明確にすることで、活動の方針や必要な要件などが定まってきます。達成目標を構造化していくことで活動の目的や目標を具体的な活動内容へと結びつけることができるようになります。
      2. プロジェクト・マップ*4・・・活動を行うのに必要な条件を実際に列挙してみんなで確認する。
      3. シミュレーション・・・プロジェクト・マップが十分であるかどうかの評価
    2. スケジューリング・・・活動目標を中心に活動内容を立て、練習日程に分配
      1. 活動内容の分解・・・3S*5がポイント「単純化-Simplification」「標準化-Standardization」「専門化-Specialization」
      2. 活動の分配・・・分解した練習内容を各練習日に分配していくときの注意点
      3. 計画の共有・・・計画は、全員がそのイメージできるようになって初めて実現できる。
    3. 不確実への対応・・・チームの本質が問われる
      1. プロジェクトとは、熱気球のようなものだ*6・・・状況は変わります。?目的を考える、?不明なことは明確にする、?不確定のものは方針を考えておく
      2. 経験を体系化しておく・・・もてる情報は何らかの形で体系化しておくと、イザというときの助けになるでしょう。
      3. 協力を求める・・・リーダーと名は付くけれど、必ずしも正しい方向へ導くことができるとは限りません。チーム全体のためにも、協力を求めるということは悪いことではありませんよ。

音楽技術資料

  1. 概要・・・ステージに向けて練習を組み立てていく過程に沿って、音楽技術を以下の3つに分類しました。それぞれのセクションでは、離散的ではありますがポイントとなる視点を列挙し説明する形で話を進めました。
    1. 楽譜を読む・・・曲の構造を理解するためのポイント
    2. 合唱をする・・・発声やステージの組み方について
    3. 音楽をする・・・音楽を豊かなものにするための考え方
  2. 楽譜を読む
    1. 構成を知る・・・初めて楽譜を手にしたというところから話を始めます。
      1. 全体を把握する・・・楽譜を読む第一歩は、楽譜をパラパラとめくり、とりあえずざっと全体を把握すること。
      2. 小節を読む・・・楽譜には「列関係」と「行関係」がある。
      3. 拍と拍子を感じる・・・拍:曲の中での単位時間。生活の中でいう「秒」。拍子:拍を一定数集めた枠。生活の中でいう「1日」。
    2. 音階と調を知る・・・曲の中に現れる音と音の間には実はルールがあり、それを知っていると曲を読む助けになるかもしれません。
      1. 音階について・・・言葉の確認
      2. 調とは何か・・・言葉の確認
      3. その曲の調は何か・・・2つの方法。?主和音を読む、?音階と雰囲気を読む
    3. 曲の構造を知る・・・曲を分解したあとは、今度はそれを組み立ててもっと大きな枠組みでとらえていきましょう。
      1. 和音と和声を知る・・・和音:縦のつながり。同時に鳴る音と音の関係。和声:横のつながり。主音と根音との関係。
      2. 音のつながりを考える・・・?和音と旋律、?和声と分配、?音の引き継ぎ
      3. 構造を考える・・・楽式について。?モチーフ(動機)、?主題(楽節)、?楽章、?曲、?組曲
  3. 合唱をする
    1. 発声する・・・合唱をするには、1人1人の歌が必要不可欠です。
      1. 響きのメカニズム・・・2つのスピーカー「鼻腔」「胸郭」
      2. 声質のメカニズム・・・「同じ音程なのにいろんな音色があるのはなぜですか?」良い声:調和する音を取り出す。倍音:ある音が含んでいる倍々の高音。
      3. 呼吸と声・・・呼吸は運動の基本。
    2. 声を合わせる・・・複数人で歌うとどういうことが起こる
      1. 自然音のメカニズム・・・指をパチンと鳴らしたときや机をコツコツと叩いたときの音もドミソの組み合わせでできている
      2. 合唱のメカニズム・・・みんなの声の「合う成分」と「合わない成分」
      3. ハーモニーを作る・・・ベースは大事
    3. 歌う・・・曲と詞。いい歌を歌うためには何を意識したらいいか
      1. 発音を意識する・・・「母音」と「子音」。発音の仕組みを解き明かす。
      2. メッセージを意識する・・・歌の中においても朗読のイントネーションは、詩のメッセージを伝える上で重要な働きをもつと考えられます。
      3. 音を意識する・・・?呼吸を合わせる、?発音を合わせる、?打点を合わせる
  4. 音楽をする
    1. 感性について・・・音を楽しむための感覚について
      1. 感性のメカニズム・・・刺激を「知覚」して自分の体験と「関連」付けるアンテナ。違いが分かるということ。
      2. 感性をブラッシュアップする・・・いろんな「違い」をインプットするようにしましょう。
      3. れから経験する・・・違いに意味を与えるのはまた別の人間的な経験によるもの
    2. 解釈について・・・「解釈」ってよく言われるけど、その実態は?
      1. 詩の解釈・・・?読む解釈:文章、時代背景、作者といった文脈から詩のメッセージを理解する。?詠む解釈:韻や呼吸、朗読の表現をよく考え、歌を作っていく
      2. 音の解釈・・・?縦の解釈:和音の変化していく中でのイメージをもつ。?横の解釈:旋律を歌う中でイメージをもつ。
      3. 呼吸の解釈・・・ステージ上で歌い手1人1人が行う息遣いを感じ合う
    3. ステージとチームワークについて・・・「音楽は時間の芸術」といわれるそうです。
      1. ステージ・・・いいステージを作るにはどのようなことに注意するといいでしょうか。
      2. 小ステージ・・・練習も小さなステージ
      3. チームワーク・・・大勢の人間が集まってチームワークによって作り上げる1つの作品です。ここでは、どのようなチームワークができるか。

反省

以上が、私の所属していたサークルで作った、指揮者・パートリーダー向け勉強会の資料となります。
正直、たいへんでした。企画したのは私で、一緒に作っていたメンバーからは「後輩に押し付けるみたいで嫌だ」とか「言葉にできないやってみなきゃ分からないことってある」とか言われました。それでも、後輩たちのためになると信じ、組織全体のためになると信じ、なんとか説得して、みんなに時間を作ってもらい、話し合い、作り、いっしょに考え合いました。量としては、運営技術資料23P、音楽技術資料31Pです。後半に行くほど、息切れ感が強くなりますw
いい加減な内容も多いけど、この企画、後輩たちがどんどん発展させていってくれたらいいんだけど…。

*1:PDCAサイクルとは・・・プロジェクトの運営は次の4つの段階に分かれており、これらを繰り返すことで運営されるという考え方です。Plan(計画)-Do(実行)-Check(評価)-Action(改善)

*2:曲練習の発展段階とは・・・曲の練習は、音とりから本番まで次の3つの要素があると考えられます。?楽譜を読む、?合唱をする、?音楽を作る

*3:PSFとは・・・人の行動に影響を与える要因

*4:プロジェクト・マップとは・・・勝手に提案して名づけました。プマインドマップみたいなもので、WBS(Work Breakdown Structure)みたいなもの。

*5:本当は作業の改善で出てくる標語なのですが、練習の単位を作るときにも使える標語だと思うので…。

*6:佐藤知一さんという方が、大学の講義「プロジェクト・マネジメント」でおっしゃった言葉を引用しています。